経済学とは?

1.経済学の歴史

歴史を知ることによって、経済学が持つ問題意識や思考法が見えてきます。また、経済学を構成するいろいろな流派を俯瞰できるようになります。それでは、経済学はいつ・どこで生まれたのか、その成り立ちから見ていきましょう。

1.1.重商主義

ヨーロッパが新大陸を発見し大航海時代が幕を開けたころ、各国はより広大な領域を支配すべく、いかにして強くなるかに頭を悩ませていました。この時代に経済学は、「国を強くする方法を考える学問」として誕生したのです。まず出てきたのが、「強いということは、金があることだ」という考え方です。金があれば軍隊を強化できますし、暮らしも豊かになりますからね。したがって、金を儲けるためにより多くの商品を外国に売って、金や銀を受け取って蓄えることが重要だと説きました。これが、重商主義です。

 

重商主義を主張したのはトマス・マン(Thomas Mun:1571-1641)やジェームズ・スチュアート(James Denham Steuart:1712-1780)たちです。外国に支払う金よりも外国から受け取る金のほうが多ければ、どんどん金が国内に貯まっていく。したがって、輸入をできるだけ減らし、輸出はできるだけ増やすべきだ。というのが主な主張です。輸出と輸入の差を重視したので、これを「貿易差額論」といいます。

 

次に、どうすれば輸出を増やせるのかということが問題になりますが、自国の産業を保護・強化することに解決策を見出します。つまり、できるだけ自国の企業を優遇するべきだというわけです。これを「保護主義」といいますが、国を豊かにするためには政府が援助をして、企業の成長を手助けしなければならない。国が経済に介入しなければならない。「国の役割は大きいぞ」というのが重商主義の基本です。

1.2.重農主義と古典派経済学

重商主義政策では国が果たすべき役割が大きいわけですが、権限の増大とともに癒着や不正が生まれてきます。業界を保護してもらいたかったら見返りが必要ですよ、ということですね。そこで、国の権限はできるだけ小さくして、経済活動は自由にした方がいいという考え方が出てきます。重農主義と古典派経済学の2学説がありますが、それぞれ見ていきましょう。

 

重農主義を唱えたのはフランソワ・ケネー(François Quesnay:1694-1774)で、農業こそが国の富に貢献すると述べました。当時は農産品が工業の原料(綿花・材木など)となっていましたし、商工業で働く人も生きるために食料が必要です。それで、農業が経済の基本だといえるわけです。ところが、封建制を引きずる18世紀においては、農民は自由に作物を売ることもできませんし、遠方に輸送しようとすれば関所で通行料を取られてしまいました。このような状況では農業が活発になるはずがありません。そこで、重農主義者たちは政府の非干渉と自由な取引を求めました。

 

これとは全く別の理論で自由主義を主張したのが、古典派経済学の始祖、アダム・スミス(Adam Smith:1723-1790)です。「店に行けば商品が手に入るのは、店員さんが優しいからではなく、売ることによって儲かるからだ。したがって、人々が自らの利己心に従って商売をすることによって、必要とされる商品はおのずと社会に行きわたる。」といったことを主張しました。このように、利己的な取引によって自然と必要なものが必要なところに行きわたる様子を、「神の見えざる手」と表現しました。見えざる手のおかげで経済活動は円滑に進むわけですから、政府の役目は何もないということになります。

 

重商主義と古典派経済学とでは理論の内容は全く違いますが、18世紀には政府の役割を抑制すべきだという意見が主流になったのです。

1.3.新古典派経済学

これまでの時代では政府=王様の役割を否定するという発想はありませんでしたので、 スミスの「神の見えざる手」という発想は斬新なアイデアとして高く評価されました。そして、ジェヴォンズ(William Stanley Jevons:1835-1882)やワルラス(Marie Esprit Léon Walras:1834-1910)が理論をさらに発展させていきます。そして出来上がったのが新古典派経済学です。

 

後を継いだ経済学者たちが力を注いだのは、「経済学を理論から科学にする」という点です。つまり、言いっ放しでOKだった理論を、正しさを検証できる科学に発展させたいということです。そのために取り入れられたのが、数式による証明という方法です。伝言ゲームで意味がズレていくという体験はあると思いますが、言語での議論は人によって解釈が変わってしまうことがあります。しかし、数式であれば誰がどう見ても意味は一つに定まるわけです。

 

また、より根源から経済現象を解き明かすために、人間の行動原理から分析を積み上げることにしました。ここで用いる重要な概念として「効用」があります。効用は「人間の快楽から苦痛を差し引いた大きさ」を表しているのですが、大雑把には幸せの程度という意味です。そして、「人間は効用が最大になるように行動を選択する」という誰もが納得する行動原理を研究のスタート地点に設定しました。

 

数式と効用が新古典派経済学のキーワードなわけですが、各人の効用最大化行動を数式で表現し、それを全員分集計する。それによって社会全体として発生する経済現象を解明する、という研究スタイルが確立されたのです。

 

さて、新古典派経済学の最大の成果についてですが、人々の自由な行動によって実現する経済状態は、社会全体として最も望ましい状態である、と証明したことにあります。これを厚生経済学の第一基本定理といいますが、規制緩和論者の論拠となっています。たくさんの企業が競争していて、人々の活動は周囲に全く影響を及ぼさず、さらに商品について完全に熟知していること、などといった条件を満たす必要はあるのですが、この結論は現代社会に対して絶大な力を持っています。国鉄や郵政を含む民営化や各種規制緩和は全て、新古典派経済学の理論に基づいて実行されてきたのです。

2.現代の経済学

ここまで経済学の歴史を見てきましたが、最後に出てきた新古典派経済学が今のところ経済学の完成形といえます。ここからは、現代の経済学が目指すもの、そして現実社会をどのように改善しようとしているのかを見ていきます。

2.1.経済学の目的

2.1.1.効率的な資源配分

国を強くすることを目的として始まった経済学ですが、現代の経済学は社会厚生を最大化することを目指しています。ここで社会厚生とは、個人の効用を全員分合計したもののことをいいます。言い換えると、経済学の目的は国民全体(あるいは世界全体)の幸福度を最大にするということになります。

 

次に、幸福度が何によって決まるかを考えてみましょう。まず、金が大事だよと思う人がいるでしょう。しかし、金は何かを得るための手段ですから、金そのものが幸せをもたらすわけではありません。おいしものを食べるとか、旅行に行くとか、いい家に住むとか、そういったものが得られれば確かに幸福度はあがります。ですから、重要なのは金ではなく財やサービスの消費だといえます。それ以外にも

友情や健康といろいろ出てくると思います。

 

効用を高める要素は多岐にわたるわけですが、友情や健康などは他の学問に任せておいて、経済学は消費に専念します。今度は、消費水準を高める方法を考えます。社会全体でみると、生産した物以上を消費することはできませんから、消費を増やすためには生産を増やさなければならないことが分かります。世の中に100個しかパンがなければ、どうやっても100個までしか食べられません。たくさん食べたかったら、たくさん作りましょうということですね。

 

そして、生産したものを効率よく消費者に届ける必要があります。「効率」という用語がクセモノなのですが、経済学では、必要性が高い人が財を手に入れている状態を効率的であるといいます。パンで例えると、おなかが減っている人がパンを持っている状態ということです。財の量は限られていますので、必要としている人から順に消費できるといいですね。

 

ここまでの話をまとめましょう。経済学の究極の目的は、社会厚生を最大にすることでした。そして、社会厚生最大化のためには、できるだけ多く生産し、それを効率的に消費者に配分する必要があることが分かりました。

 

生産を増やすという部分にもう少し突っ込んでおきたいのですが、どうすれば増産できるでしょうか?真っ先に思い浮かぶのは技術革新ではないでしょうか。ロボットを使って生産を自動化すれば大量に作れそうですね。工場見学やテレビで見たことがある人も多いと思いますが、実際に食品工場では機械が超高速で卵を割ったり、ライン上で勝手にパンを焼いたり、人工アームが自動で包装したりしています。このように技術は大変重要なのですが、発明は工学の研究分野なので、残念ながら経済学では立ち入れません。

 

では、「経済学は何をしているの?」と疑問になりますが、経済学が担当しているのは生産を増やすための仕組みづくりの部分です。例えば、技術はあるけれども工場の建設資金が不足している企業があるとしましょう。この企業にお金を貸せば、工場を建てていい製品が作られることでしょう。あるいは、人手不足で困っている企業に求職者を斡旋してあげれば、その企業の生産量は増加します。このように、ヒト・モノ・カネをこれらが不足しているところに上手く融通できれば生産を増やすことができます。ここでふと気づくのが、生産量を増やす手段として、結局のところ資源の適正配分について考えていたということです。

 

みんなの効用を高めるためには、経営資源を効率的に企業に配分してたくさん生産する、そして生産された財を消費者に効率的に配分することが重要です。資源の適正配分を実現するための仕組み作りが、経済学の役目なのです。

 

2.1.2.市場の失敗

ところで、新古典派経済学の最大の成果として、厚生経済学の第一基本定理を紹介したのを覚えていますか?この定理は、「人々が自由に行動するときに、全体として最もいい状態になる。」というものでした。そうだとすると、経済学はもはやこれ以上何もすることがありません。

 

第一基本定理が成り立つためには、「たくさんの企業が競争していて、人々の活動は周囲に全く影響を及ぼさず、さらに商品について完全に熟知していること」などといった条件が必要なのですが、実際には満たしていないことが多々あります。例えば、独占や寡占があります。大正時代の米騒動は典型例ですが、モノを売る企業が少なければ、売り惜しみをして価格を吊り上げることができます。そうすると、店主は使いきれないほど大量の商品を抱え込む一方で、住民は必需品を手に入れられないということが生じます。この状態はまさに、資源配分が非効率になっているといえます。また、商品について十分な知識がなければ不要なものを買ってしまうかもしれません。いらないものを持っているという点で、これも資源配分が非効率になっています。このように、自由な取引に任せていては効率的な資源配分を達成できない状態のことを、市場の失敗といいます。現実の社会では何らかの市場の失敗が生じていることが多く、これらを解決するための方法を研究する必要があるのです。

2.2.各分野の経済学

経済学は市場の失敗を正し、資源配分を効率的にする方法を研究しているのですが、研究する対象によっていくつかの種類に分類することができます。メジャーなところでは、産業組織論・公共経済学・環境経済学・金融論・交通経済学・医療経済学・開発経済学といったものがあります。ちなみに、○○経済学になっているものと○○論になっているものとがありますが、特段の意味はありません。経済学が具体的にどのような成果を上げているのかはこちらを読んでもらいたいのですが、 思いのほか広い範囲を研究対象としていることが分かるでしょう。ニッチなところでは、恋愛経済学・家族経済学なんてものまであります。

2.3.経済学の研究方法

さて、それでは経済学がどのようにして問題の解決法を研究しているのかという話に進みましょう。経済学の研究は理論と実証で成り立っているのですが、それぞれの方法を説明していきます。イメージがわきにくいですので、ここからは「原油価格がガソリン市場に与える影響」を例にします。

 

理論研究では、個人・企業・政府といった経済主体の行動を数理モデルで表現します。まず消費者についてですが、私たちはモノを買うときは価格を見て買いますね。ガソリンであれば、100円のときは10リッター、120円のときは8リッター、140円のときは5リッターといった感じです。このように、価格によって需要量は変化していきますので、分析では価格と需要量を対応させて需要関数を作ります。企業も価格を見て販売量を決めますので、同じように価格と供給量を対応させて供給関数を作ることができます。これらの数式を使えば、輸入する原油価格が上がった→企業はコスト増を価格に転嫁する→個人はガソリンの購入量を減らす、といった分析ができるようになります。この分析を「確かに、原油が高いならガソリンを使うのを控えそうだ」と納得できる人もいれば、「いや、生活に欠かせないから消費量は減らないよ」と反対する人もいるでしょう。理論はあくまでも理論なので、正しいことも間違っていることもあるのです。

 

そこで、理論が正しいかどうかを検証するためにデータによる実証研究を行います。データは政府や業界団体が実施している統計(国勢調査・物価統計調査・人口動態調査・生産動態調査など)を使うこともあれば、自分でアンケートなどを実施して集めることもあります。そして、得られたデータを統計学の手法を用いて処理すれば、理論的な結果が妥当かどうかを検証できます。今回の例でいえば、基本的にはガソリンの消費量と原油価格のデータを使うことになります。実証研究で難しいのは、他の要素の変化の影響を取り除くことです。ガソリンの消費量が減ったとしても、実は原油価格の上昇が原因なのではなく、景気の悪化が真犯人だったということもあり得ます。複雑な経済現象の中から必要な要素だけを取り出すためには、高度な統計的な知識が必要です。

 

このように経済学では、理論で予想してデータで実証するという研究手法がとられています。

2.4.他の学問とのつながり

学際的という言葉があるように学問は互いに近接分野と連携して研究をしていますが、経済学はどの分野と関係が深いのでしょうか?経済学と他の学問のかかわりについてお話しします。

 

2.4.1.経済学の成立に影響を与えた学問

現代の経済学を作り上げたのは、19世紀の新古典派の経済学者たちでした。精緻で厳密な学問に仕上げるために彼らが頼ったのが、物理学の力学計算と倫理学の功利主義です。

 

力学計算とは、物体の運動を方程式で表現する方法のことです。最も有名な運動方程式は、ma=F(m:質量、a:加速度、F:力の大きさ)として物体の運動を説明します。この発想を取り入れて、経済学は人間の行動を方程式で説明することにしました。

 

そうすると、どのように方程式を建てるかが問題になります。物体は全て同一の物理法則に従って動きますが、人間は個性がありますので人によって行動原理は異なります。ある程度万人に共通する法則を見つけ出さなければ、うまく人間の行動を方程式に落とし込むことができません。

 

そこで経済学者が着目したのが、「快楽から苦痛を差し引いたものである功利を最大にするべきだ」という功利主義です。人間は誰でも嫌なことを避けて楽しいことを求めますから、人類共通の行動原理として使えそうです。功利主義は、快楽や苦痛の大きさを数値で評価して功利を計算するという発想を持っています。これを応用して、「功利計算によって功利を最大化する」という行動選択の法則を導き出すことができます。

 

このように、人間の行動原理を倫理学に求め、それを物理学的に計算するという手法を取っています。ですから、経済学は究極の文理融合分野だといえるでしょう。

 

2.4.2.経済学と近年関係が深くなった学問

経済学から接近していった学問として、心理学があります。経済学の研究方法に心理学の要素を取り入れて、行動経済学という分野が成立しました。従来の経済学では人間は合理的に功利計算ができると想定していましたが、実際には非合理的な部分もありました。リスクに対する非合理性としてパチンコや競馬などのギャンブル、時間的な非合理性として宿題や試験勉強を計画通りに実行できないといったことが挙げられます。喫煙や肥満も、将来の健康よりも現在の楽しみを優先してしまうという点で合理的でありません。心理学の知見を取り入れることによって、このような合理的でない行動も適切に経済モデルで表現できるようになりました。

 

逆に、経済学の成果を取り入れている学問として、経営学や政治学があります。経済学では戦略的な意思決定を取り扱っていますので、これを経営者や政治家の判断を分析するのに応用することができます。経営者はライバル企業の出方をうかがいながら自社の利益を最大化しようとしていますし、政治家も外国の反応を考えながら国益を増大させることを目指しています。ほかにも、生物の生存競争を分析するのにも経済学が取り入れられているようです。

3.それで、経済学とは

 ここまで経済学と何かについて長々と書いてきましたが、結局のところ経済学とは何なのでしょうか?個人・企業・政府の行動を分析し、社会で起きている現象に潜むメカニズムを解明する。そして、人々の厚生、つまり幸福度を高めるための仕組みを提案する。このようなことをしているのが経済学なのです。